カーボンナノチューブ(CNT) 商品化 : 過去、現在、未来
2018年5月2日
カーボンナノチューブ(CNT) はすでに30歳を迎えています。この間CNTは理論として誕生してから「過度な期待」のピーク期を迎え、幻滅期に入って消滅したも同然という、ハイプ・サイクルのほとんどを経験してきました。しかしながら、IDTechEx の新たなレポートの分析によると、CNTはひそかに勢いを盛り返しており、現在まさに生産量増加の段階に入っています。本記事では、CNTの商品化プロセスの発展について検討していきます。そのために積み重ねられてきたグローバルな生産能力と数年間の価格変化を見ていきましょう。
詳しい内容はIDTechExの調査レポート "グラフェン、2Dマテリアル、カーボンナノチューブ: 市場、技術、ビジネスチャンス 2018年-2028年 " (Graphene, 2D Materials and Carbon Nanotubes: Markets, Technologies and Opportunities 2018-2028)をご覧ください。この包括的なレポートではこの分野における用途別市場予測、製造工程、アプリケーション、キープレーヤーなど、多くの情報および分析を掲載しています。
The hype curve for two prominent nanomaterials: graphene and carbon nanotubes. Multi-walled carbon nanotubes (MWCNTs) are now into their growth phase. Source: IDTechEx Research
背景
グラフェンその他多くの類似のカーボン添加剤と同じで、CNTの種類は1つではなくたくさんあります。この多様性は市場で販売されているCNTの形態をチューブの長さと直径に基づいてマッピングした以下の図に表れています。単層CNT(SWCNT)、多層CNT(MWCNT)、カーボン・ナノファイバーに至るCNTの直径が1~数百ナノメートルといかに幅広いかに注目してください。同様に数マイクロメートルから2ミリメートルと、入手可能な長さの範囲の広さにも注目してください。
これらのCNTはそれぞれが異なる素材です。生産方法や価格設定、加工処理、使用方法が異なるのです。
こうした多様性は、以下に示すように価格においても明白です。正確な数字は削除しましたが、価格の範囲は6桁と大きく、やはりCNTが種類によって大きく異なることが際立っています。具体的な金額は当社の 当社レポートでご確認ください。
ここからは、もっぱら市場の主流であるMWCNTについて検討します。ただし、最後にSWCNTをより手頃な価格で入手可能にしようといういくつかの重要な試みに焦点を置きます。
Left: morphology of different CNTs morphologies on the market. Each box corresponds to a different CNT offered by a different company. The company (supplier name) is removed. Right: price position in $/Kg of different CNT type. We can that the price differences cover six orders of magnitude. For the details refer to Graphene, 2D Materials and Carbon Nanotubes: Markets, Technologies and Opportunities 2018-2028. Source: IDTechEx Research
CNT商品化の歩み
MWCNTは主に触媒化学気相成長(C-CVD)プロセスを用いて製造されます。このアプローチは浮遊触媒、流動床などのさまざまな方法によって機能を向上させてきました。主要な要素は温度、炭素含有ガス、反応時間(滞留時間)および触媒です。コバルト、鉄などから作られる触媒はCNTの形態およびプロセスの変換収率を決定するうえで不可欠です。
世界的に見た、長年にわたるMWCNT生産の発展状況を以下に示します。この図を盛り込むことにしたのはCNT商品化の流れが手に取るようにわかるからです。ここでは商品化の取り組みが始まったのが2005年、2006年頃だという点に注目してください。その後ハイプ(過剰な期待)が起こり、生産設備の導入ラッシュを招きました。その結果業界は過剰生産能力に陥り、さらに悪いことに多くの企業はカーボンブラックに本格的に取って代わるにはふさわしくない性能のCNTを生産せざるを得なくなりました。
そのため将来の見通しに失望した一部の企業は事業から撤退し、全体の生産能力が若干修正されました。参入する企業あり、撤退する企業ありで、その後世界的な生産能力はおおむね一定を保っています。しかし重要なのは、稼働率がじわじわ上昇し始めていることです。
当社の分析では市場は今生産量増加期に入っています。伝導性プラスチックにおけるMWCNTの使用はすでに十分に確立し、用途は広がっています。MWCNT はまたエラストマーなどの新型ポリマーにも添加されています。より重要なのはバッテリーへの使用が増えていることです。バッテリー市場自体、高度な充放電機能で稼働する大型のバッテリーが必要な電気自動車の普及効果により今後の急成長が見込まれる拡大市場なのです。
全般的に見て大半のカーボンベースの素材と同じように、CNTのターゲット市場は多様で見通しは底堅いです。我々は生産能力の増大に伴い需要はほどなく目に見えて伸びるだろうと評価しています。この傾向は400tpaの施設が韓国で操業を開始した1年以上前にすでに始まっていました。このトレンドはこれからも続くでしょう。
Left: historical and projected price evolution of MWCNTs as a function time. The exact values have been removed in this article, but you can see that prices were reduced nearly by nearly a factor of 100. Right: global accumulated production capacity as a function time, telling the story of the market evolution. Source: IDTechEx Research
グラフェンと同じでCNTはしばしば代替添加剤として用いられます。そのためCNTは既存企業によって設定される参考市場価値と価格および性能の面で競合しなければなりません。それが常に価格引き下げ圧力を引き起こします。よって業界は生産コストを抑えるより他ありませんでした。その点では業界は大いに成功しています。
それもCNTの価格変化を示す図に表れています。青の点はこれまでの価格を、赤の点は当社による将来の予測を表します。この記事の目的上具体的な価格は記載されていません(当社レポートを参照)が、学習曲線の傾きは急で価格は2桁低下しています。
価格と数量のこうした競争がMWCNT供給ビジネスを大いに商業化しました。今後の生産コストは加工ノウハウや触媒技術などの技術、さらには原材料やエネルギーなどの安価な投入物の入手可能性の影響を受けるでしょう。
商品化といっても原材料品質のあらゆる差がなくなったわけではありません。まったく逆です。むしろ本記事の冒頭で述べたようにたくさんの種類のCNTが市販されており、MWCNTの場合も同じです。価格差が小さくなるにつれ、用途によっては質のちがいが明白になるでしょう。その意味で価格競争は厳しいものの市場はその特殊化学的性質を維持しています。
MWCNTはもはや新しい素材ではないものの技術革新が止まったわけではありません。たとえば企業は現在、幅広い用途のために肉眼で見える糸にできる長いCNT(最大2mm)の成長を順調に進めています。新たな機能の付加や浸透しつつあるアプローチは常に公開されています。
他のタイプのCNT
表面積対体積比の高さを考えると、個別のチューブごとに見たSWCNTには優れた性能があります。しかしSWCNTは成長がより困難かつコストがかかります。金属と半導体の混合物でたとえ同じかよりよい効果を出すために使用される濃度(wt%)のレベルがずっと低くても普及ははるかに難しいです。これら3つの属性により、SWCNTの市場は以前から一部のニッチな電子装置に限定されています。
中にはより手頃な価格で入手できるSWCNTを提供することでこの状況を変えようとしている企業があります。特にロシアのある企業は数量および価格面でSWCNTの世界的なリーダーとなり、SWCNTの市場における位置づけを高性能のMWCNTに近づけています。これらのSWCNTなら用途によっては代用品としてMWCNTと競合できますが、もっと興味深いのは(as-grownタイプで)不純物レベルが中~高程度であるにもかかわらず、SWCNTの用途が今後新たに広がると考えられる点です。注目すべき用途の1つは、SWCNT が(黒以外の)色付きの導電性接着剤を可能にすることです。それが可能なのは装荷レベルが無視できるほどに低く、着色顔料を混ぜてその効果を維持することができるからです。このようなタイプのSWCNTがコスト面で直接競合するのは依然として無理でも、最初にそうした付加価値を顧客に提供する市場を見つけると我々は分析しています。
さらに詳しい内容は当社レポート "グラフェン、2Dマテリアル、カーボンナノチューブ: 市場、技術、ビジネスチャンス 2018年-2028年 " (Graphene, 2D Materials and Carbon Nanotubes: Markets, Technologies and Opportunities 2018-2028)をご覧ください。カーボンナノチューブ同様にグラフェン市場に関しても包括的な分析を提供します。 製造プロセス、アプリケーション、140社以上の参入企業情報も含まれます。
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