量子ドット(Quantum dots) : 成長と変化の時
2018年7月25日
量子ドット(QDs) はもはや若い技術ではありません。パイオニア企業が形成されたのが2001~2005年であることを考えるとその商業化プロセスですら最近の話ではありません。また量子ドットは商業的にも駆け出しの技術ではありません。実際、何年にもわたってリモート蛍光体として液晶ディスプレイに採用されています。
そうなると量子ドットは今や停滞した技術であり商業的可能性が低く変化が見込めないと考えたくなるかもしれません。しかしこの想定は極めて的外れと言わざるを得ません。この記事はむしろ今成長期に突入し、急激な技術進歩を遂げていることを検証するものです。
この記事はIDTechEx調査レポート 量子ドット 材料と技術 2018年―2028年: トレンド、市場、プレイヤーからの抜粋です。このレポートは量子ドット技術と市場について詳細な分析を提供しています。10年間のロードマップ、さまざまな量子ドット実装アプローチがどのように変化するかについても取り上げています。量子ドットの技術別、アプリケーション別の10年間の市場予測や市場がどのように成長し技術ミックスがどのように時間とともに大きく変化するかなども見解を示します。
ディスプレイについては、エッジタイプ、フィルムタイプ、カラーフィルタータイプ、オンチップタイプ、発光型のディスプレイを考察します。またイメージセンサー、照明、太陽電池等の応用についても分析します。 さらにさまざまなQD技術を商品化するために克服しなければならない多くの技術(材料およびデバイスレベル)と市場の課題について概説し、徹底的な技術分析を行っています。 最後に業界の主要プレーヤーの詳細な概要を紹介します。
Snapshot of readiness level of various QD applications. Source: IDTechEx
量子ドット:過去から現在までの推移
研究用途を超えた量子ドットの最初の成功はディスプレイ業界でした。最初の高性能カドミウム系量子ドットはエッジオプティック(edge-optic)またはフィルムタイプの実装で液晶ディスプレイに採用されましたが、ディスプレイ業界はその先へとすでに進化しています。主な推進派が知的所有権に絡む訴訟を受け、所有する特許ポートフォリオを売却したことからエッジオプティックはほぼ陳腐化し、業界はカドミウム系からカドミウムフリー、またはカドミウムレスの方向へと移行しています。2018年のカドミウムフリー(レス)のマーケットシェアは80%に達する見通しです。議会が有毒カドミウムの使用禁止(2019年10月施行)をようやく公表したことがこうした材料構成の移行の流れを作りました。
しかしカドミウムフリー(レス)への移行には依然として性能の低下が伴います。代替となるリン化インジウム(InP)ベースの量子ドットは量子収率(QY)のギャップをおおむね埋める中、今なお発光帯(FWHM)の広さが課題です。今日CdSe は商業環境では35nm、実験環境においては20nm以下を実現していますが、InPベースの量子ドットは商業環境ではおよそ40nmですが実験環境に至っては35nmも未達の状況です。InP粒子の形状・サイズの単分散性をコントロールすることは生易しいことではなく、従って迅速にこのギャップを埋めることは困難と言わざるを得ません。
また量子ドットの安定性も向上しています。安定性の向上によりフィルムタイプの実装におけるバリア要件がすでに緩和されており、その傾向は今後も続く見通しです。その結果バリアフィルムのシンプル化と低コスト化が進みます。大規模化あるいは低温分子シーディング法、マイクロキャピラリーやワンポット合成での連続反応等、革新的プロセスによる生産性向上の取り組みはすべて1キログラム当たりの生産コストの削減を目的としています。また量子ドットの明るさの向上も1平方メートル当たりの消費量低下につながります。これらすべての要因が量子ドット導入の総コストを引き下げています。
一方、この流れはディスプレイメーカーにとっての新たな価格戦略の幕開けとなります。その結果中国を中心とした一部メーカーでは様々な価格をカバーするために取扱製品を拡大する一方、他のメーカーではコスト環境の新たな現実を無視して高価格の超プレミアムオーラをまとった量子ドットディスプレイを維持しようと悪戦苦闘するといった興味深いダイナミクスが巻き起こっています。
量子ドット:先端材料開発者の夢
カドミウム系量子ドットの代替ソリューションはInPだけでなく、ペロブスカイト型(PeQD)もあります。ペロブスカイト型はサイズと構成による発光波長(カラー)のコントロールを提供します。例えば有機MPbX または無機CsPbX でXをヨウ化物からブロミドとクロリドに変化させると発行体が赤から緑と青にシフトします。
またペロブスカイト型は無秩序性にも高い耐性を発揮するため、狭帯域発光の実現を容易にします。しかしまだ新しい技術のため重大な欠点があります。赤色のペロブスカイト型は化学的に極めて安定性が高いことから、主にFWHM20nm以下の無機緑色(CsPbBr3)にその選択が制限されています。このためプロブスカイト型の展望は少なくとも中期的には赤色蛍光体または非プロブスカイト型と併用される量子ドットとのハイブリットの可能性が高いと思われます。材料に関する状況はカドミウム系量子ドットからの移行で終わるものではありません。むしろその逆で今、様々な開発の道が開かれたエキサイティングな時代に入ったばかりと言えます。実際ディスプレイにおける各種量子ドット実装方法の命運を決めるのは、さらなる材料開発です。今日ディスプレイにおいては様々な熱や光のストレス源から量子ドットを十分遠ざけることに成功しているフィルムタイプが独り勝ちしている状況です。しかしフィルムタイプは過渡的なソリューションに過ぎません。なぜなら当社のテクノロジーロードマップにも示されているように、材料の向上はやがてカラーフィルターやオンチップひいては発光型の量子ドットディスプレイを実現するからです。以下、それぞれの実装に必要な要素について簡単に触れていきます。詳細は本レポート に掲載しています。
- カラーフィルター: このタイプでは量子ドットが樹脂やインクでより広く分散しあまり劣化せずに焼成・硬化プロセスを耐え抜く必要があります。また自己吸収を制限し、青色吸光度を高めなければなりません。周辺システムも変わる必要があり、セル内ポーラライザーだけでなくバックパスフィルターも採用するかもしれません。そうすることで、効率性の向上、色域・視野角の拡大という報酬が得られます。
- オンチップ: このタイプでは量子ドットの光や熱のストレスに対する耐性を高める必要があります。これは極めて重要な要素であり業界はコア・シェル・リガンドシステムにおけるインターフェースの軟化、新しい無機保護膜、新規リガンド等、様々な戦略を模索しています。今日低出力LEDや一部(全部ではない)のマイクロLEDの応用で発見された緩やかな条件には対応していますがその先に進むには広範かつ息の長い開発が必要となります。
- 発光型: いろいろな意味で究極の光学材料と言えるのがこのタイプの量子ドットです。広い色域、高効率性、高コントラスト、溶解処理、薄さ(つまり高柔軟性)を実現しますが、まだ開発の初期段階にあり実施すべき多くの科学的研究が残されています。有機EL、特にカドミウムフリーの量子ドットについては効率性格差を解消する必要があります。また寿命の大幅な向上、最適なデバイススタックの構成・形状の確立、高画像解像度三色ディスプレイの製造方法の開発・スケーリング等々も必要です。したがって可能性も大きいけれど問題も大きいのがこのタイプです。具体的に言うことはできませんがディスプレイ材料サプライビジネス業界に最適なものが実現するでしょう。
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IDTechExの調査レポート 量子ドット 材料と技術 2018年―2028年: トレンド、市場、プレイヤー ではさまざまな量子ドットの統合アプローチのメリット、それぞれに直面する課題、最新の進捗状況について詳しく説明しています。 また技術ロードマップと10年間の市場予測を技術別に分け、それぞれの技術がどの時期にどう変化して行くかを示しています。本レポートは、IDTechEx日本法人 アイディーテックエックス株式会社から購入できます。見積書、請求書発行も発行します。詳しくは下記までお問い合わせください。
担当:村越美和子 m.murakoshi@idetechex.com
090-1704-1184
Ten-year market forecasts for quantum dots segmented by 12 use cases. Evidently our assessment is that QDs are entering a period of growth and rapid change. The overall market will grow in the coming decades although costs reductions can cause a plateauing or a decline near the end of our forecast period. More importantly, the technology mix will be significantly transformed over the years as film-type will no longer reign supreme, giving its market share to color filter QDs, on-chip QDs, emissive QDs, and so on. Finally, the industry will not be limited to displays, potentially moving beyond towards lighting, sensors and photovoltaics. For exact values see our report. Source: IDTechEx.
量子ドット:ディスプレイを超えて、さらに
量子ドットはディスプレイに限定されません。 照明、センサー、光電池などの多くのアプリケーションがあります。 ここでは各アプリケーションの概要を簡単に説明します。 IDTechExのレポート量子ドット 材料と技術 2018年―2028年: トレンド、市場、プレイヤー では最新の進捗状況、チャレンジングな課題、チャレンジ克服の戦略、主なプレイヤーとイノベーター、市場投入までの見積もり、10年間の市場予測 を提供します。
- LEDの最大用途である照明もまた魅力的なアプリケーションです。一般的な照明部門におけるドライバーは効率性を損なうことなくLED照明のカラーレンダリング指数(CRI)を向上することです。これは量子ドットのFWHMを狭くすることで可能となります。この業界は価格の下落もっと言えば、量子ドットの安定性が向上し、より多くの種類のLEDへの統合が可能になることでさらに進歩するはずです。ところがその前にメーカーは発光を最適化するためにフィルムタイプの量子ドットを提案してきました。しかしこれまでのところ市場の反応は鈍い状態が続いています。並行して一部メーカーは量子ドットが発光スペクトルの微調整に使用される園芸等の特殊用途に量子ドット照明を展開しようと模索しています。
- センサーも有望です。センサーの注目点は量子ドットの幅広い吸収特性にあります。センサーを2つのカテゴリーに分ける場合、可視光型と(近)赤外線型のイメージセンサーに分類することができます。可視光型では量子ドットをシリコン製の読み出し回路にキャスティングすることでグローバルシャッターと大型ピクセルコンデンサを搭載した高解像度(小画素)・高感度イメージセンサーを可能にします。このハイブリッドシリコン系量子ドットセンサーは(適切に融合された場合の)高感度量子ドットレイヤーとこれが持つ感光性物質と処理回路の分離能力により可能となります。(近)赤外線型については(近)赤外線に反応するよう適切な量子ドット(PbS等)が吸収スペクトラムを調整することができます。またシリコン製の読み出し回路に直接量子ドットを追加することも可能です。このように異なるセミコンダクターシステムをシリコンと非一体型に統合する必要はなく、解像度を制限します。
- 太陽電池も興味深いアプリケーションです。量子ドット太陽電池は相互補完が可能であり、吸収幅を拡張します。さらにペロブスカイト型は可能性を有しているものの、まだまだ未熟であり不安定性の諸問題を抱えています(注:プロブスカイト型薄膜太陽電池は太陽電池技術として史上最速の改善スピードを誇り、現在チャンピオンセルの効率性27%を超えています)。プロブスカイト等の新型太陽電池技術も中国とウェハベースのシリコン太陽電池技術が支配する熾烈な競争環境に突入します。並行して量子ドットが透明な窓面で光を吸収・再発光する太陽電池用発光型集光器を実現するために各種量子ドット(CnInSe 等)の使用を模索する動きも出ています。
- その他: 当然のことながら量子ドットはイメージング分野を中心とした研究にすでに使用されています。セキュリティ等、その他の様々な応用も提案されており、量子ドット技術が成熟するにしたがって当然の結果として新たな用途が確立されるでしょう。
さらに詳しくは、IDTechExの調査レポート量子ドット 材料と技術 2018年―2028年: トレンド、市場、プレイヤー をご覧ください。 オンチップ量子ドットを含むさまざまな量子ドット実装アプローチがどのように上昇し、下降するかを示す10年間の技術ロードマップも提供します。 市場がどのように成長し、技術ミックスがどのようにして時間とともに大きく変化するかを示す量子ドット技術とアプリケーション別の10年の市場予測が含まれています。 エッジタイプ、フィルムタイプ、カラーフィルタータイプ、オンチップタイプ、発光型ディスプレイなどを取り上げます。 InPおよびペロブスカイトだけでなく、Cdベースの材料も詳細に検討します。アプリケーションでは、ディスプレイ、照明、センサー、太陽光発電などを扱います。
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