フレキシブル薄膜封止とバリアにおける技術の進化
2018年9月26日
フレキシブル素材のバリアや薄膜封止技術を使用した商品が実現するまで15年もの歳月がかかりました。ところが一部の予想に反し、この成功によってバリア技術の問題がすべて解決したというわけではありません。事実フレキシブルバリア技術をあらゆるサイズ、感度レベル、柔軟度のデバイスについて、ユビキタスで広く使われる低価格な部品として使用するにはまだまだ取り組むべきことがたくさん存在しています。
この記事では今日開発されているさまざまなバリア技術を解説します。 この記事は新しいIDTechExの調査レポート 「フレキシブルかつ(または)有機のエレクトロニクスのためのバリアフィルムおよび薄膜封止2018-2028」から抜粋しています。本レポートではインライン薄膜封止(TFE)、多層バリアフィルム、単層空間的原子層堆積薄膜、フレキシブルガラスなど様々な封止技術についての最新の分析を行います。またリジッドOLED(有機OLディスプレイ)、プラスチック製のリジッドOLEDとフレキシブルOLED、OLED照明、量子ドット強化フィルム、有機太陽電池、その他フレキシブル太陽電池技術など、様々な応用技術について考察しています。
多層バリアフィルムは商業的に成功するか?
多層バリアフィルム: 大半の単層無機薄膜がまったく要求性能レベルに達していないということはすぐに明らかになりました。その結果、多層バリア(MLB)アプローチが開発されました。そこでは多数の有機/無機の層が堆積されます。遥かに厚い有機層の役割は(1~20マイクロメートル対100~200ナノメートル)表面を平坦にし、微粒子や不純物を覆い、ピンホールをなくし、柔軟性を上げて応力を緩和することです。
このアプローチは少なくともごく小規模なサンプルでは要求性能レベルを実現しました。ただ、大規模なハイスループットのロールツーロール(R2R)方式の生産ではなかなか成果が出ませんでした。理由は性能が工程条件の影響を大変受けやすいからでした。つまり製造環境は非常にクリーンでなければならず、プラスチックフィルム表面に溜まる静電気は表面の不純物を除去するために細心の注意を払い管理されなければなりませんでした。またR2R方式のマシンはローラーや巻き取り機とバリアフィルム前面の接触を最小限にするように設計、または少なくとも操作する必要がありました。高品質の空間的に均質なフィルム形成を促すためには巻き取り速度は遅く、巻き取り幅は狭くするなどいろいろな課題がありましたが、中でも大きかったのがフィルム層に侵入経路となる接着剤が必要であったことでした。
こうした課題を解決する道は険しく、一筋縄ではいかないものばかりでした。ほとんどは幅が狭く巻き取りの遅いテストマシンのままでごく一部だけが危険を冒して幅の広い高性能の(>1E-5 g/㎡/日)MLBフィルムへと移行するに留まりました。また実際の製造環境で製造し生産量を改善する機会がほとんどなかったため容易に原価モデルを割り出すことができませんでした。
現在、本業界は以前に比べて技術的に恵まれた状況にあります。IDTechEx 調査レポート「フレキシブルかつ(または)有機のエレクトロニクスのためのバリアフィルムおよび薄膜封止2018-2028」の中でMLBフィルム製造に向けたさまざまなアプローチの詳細な分析を行い、世界でMLBフィルムと高性能接着剤などの関連品に取り組むキープレーヤーについても詳述しています。さらに大面積デバイスにおけるフレキシブルバリアの継続的ニーズや、インラインTFEが完全に受け入れられるかというリスク、空気中での材料の安定性改善の推移など短期的および長期的発展の可能性を考慮に入れて取引金額と取引量(㎡単位)について10年の市場予測を行っています。
インライン薄膜封止:初期商業的成功に続く今後の展望
このアプローチはいくつかの点でMLB技術の進化と呼ぶことができます。多層構造はデバイス上に直接的かつ等角的にインラインで形成されますが、そうして価値とリスクの両方がデバイスメーカーにより工場で生産されるのです。ここで言うリスクとは品質の劣るバリアフィルム生産はフィルムだけではなくデバイスごと無駄にしてしまうことまたバリアフィルムの堆積がタクトタイム(製造にかかる時間)を遅らせることを意味します。
しかしこの技術では別の基材や追加の接着剤を必要としないため、厚みを最低限にすることで柔軟性を改善できます。この技術は2014年頃にリジッドプラスチック曲面OLED で商品化されました。この成功に至るまでに層の数は大幅に減らされ、堆積プロセスも当初の技術に比べて発達していました。事実、無機および有機の層を堆積させる方法はそれぞれPVD (スパッタ法)と蒸発法からPECVDとインクジェット印刷へと変わりました。下地の有機層の上限温度を超えない範囲で高性能を発揮させるため材料も改良する必要がありました。この発達により薄型デバイスが実現し、2 mm以下の曲げ半径の時代が到来したのです。
現在好調ではありますがインラインTFE(薄膜封止)の取り組みは留まることはありません。現在、超薄型無機層形成用のALL-PECVDプロセスや空間的ALDが開発中です。生産量はまだまだ伸びる必要がありますし、何よりもさらに大型デバイス用の大面積フィルムに対応できるよう製造装置の改善も必要です。
今日、インラインTFEはほぼ上部の封止に使用されています。底部の封止は他の層を挟んで増強した比較的厚い無機のみの層でできています(TFT +相互接続された層)。この底部のバリアはまたより高い屈曲度を実現するために多層構造へと移行する必要があるかもしれません。そのためには高温耐性のある有機物と同様に原価構造の改善が必要となるでしょう。 IDTechEx調査レポート「フレキシブルかつ(または)有機のエレクトロニクスのためのバリアフィルムおよび薄膜封止2018-2028」では過去、現在、未来をカバーするTFE技術の詳細な分析を提供します。本レポートではリジッドOLED 、プラスチックOLED、フレキシブルOLED 、OLED 照明などのセグメントごとにそれぞれの主要メーカーを取り上げこの先10年の市場予測を行っています。この技術はディスプレイとライティングパネルのメーカーだけでなく、装置と原料サプライヤーにとっても引き続き将来のチャンスを握る鍵となるでしょう。
原子層堆積(ALD)は生産性の問題を解決できるか?
ALDでは単分子層の積み重ねによってフィルムを堆積させ、優れた内部WVTR(水蒸気透過率)を持つ高品質薄膜を作り出します。事実、バッチ式ALDの無機層だけでOLEDなどの応用で求められる内部WVTRを実現しています。
しかしそこには大きな課題があります。第一に層があまりにも薄いために表面の微粒子や不純物の不動態化処理を行うのが難しく外部性能が落ちるため全体的な性能が落ちる可能性があります。さらにバッチ式ALD製造工程では堆積のハーフサイクルは時間的に分割して行われています。そのようなわけでプロセス全体では非常に時間がかかり総合的な生産性が損なわれています。
後者の欠点への解決策として多くのメーカーではR2R方式の空間的ALDプロセスの開発を行っており、ハーフサイクルを空間的に分離して行っています。またこの技術ならではの課題もあります。特にR2Rマシンではデリケートな超薄コーティングを傷つけないようにフィルムの回転や巻き取り時にALDコーティングされたフィルム表面がどこにも触れないように設計されなければなりません。それにはまったく新しいマシンの設計が必要となります。なおかつこの技術は性能を落とすことなくより幅の広いローラーをさらに高速で回転させるレベルまで引き上げる必要があり、しかも外部WVTRが低くなる恐れがある問題も解決していけなければなりません。IDTechExの調査レポート「フレキシブルかつ(または)有機のエレクトロニクスのためのバリアフィルムおよび薄膜封止2018-2028」ではALDが直面する進捗上の課題の概要をまとめました。 本レポートでは学術界、商業界の主要なキープレーヤーについて詳しく解説し、その一方でALD層の単層またはハイブリッド多層バリアとしての中期的および長期的役割について考察しながらこの先10年の市場予測を行っています。
フレキシブルガラスは基板兼バリアの究極ソリューションとなるか?
ガラスは優れたバリアであるとともに高温処理も可能にします。ただ従来のガラスは硬質でした。しかし多くの人々がこの数年この唯一の欠点を克服しようと試みてきました。実はフレキシブルガラスは約10年前に市場に初めて投入されましたが、こうしたガラスの柔軟性はその薄さに理由があったため削ったりエッチング加工を施したりすることで実現されていたのです。
しかし商業的成功には恵まれず、つい最近曲面OLED照明の基材で使用されるなどごく限られた製品でしか採用されていません。これはフレキシブルガラスが他のソリューションほど柔軟ではなく割れやすいためで、短いタクトタイムの実現を目指す真空装置においては重大な問題と言えます。さらに安定供給の問題も常にあります。古典的な卵が先か鶏が先かの話となりますが企業は安定した大量生産と最終的なコストという問題を置き去りにしたまま大規模な投資を行って大掛かりな製造に踏み出すわけにはいかないのです。
しかしフレキシブルガラスに対する長期的な市場の関心は非常に高いまま推移しています。追加の層を必要としない1つで高温に耐える高性能フレキシブルバリア基板として働くソリューションへの期待が高いのです。しかしそうした市場の強い期待とは裏腹に現在の商業的な見込みは技術的制約からも(柔軟性、扱いやすさなど)商業的制約からも(最終原価、供給力)極めて厳しい状況です。これらの課題を克服するには忍耐と長期的な戦略的視点が必要となります。そしてそれは長い歴史の中で幾度となく改革を行ってきたガラス業界には存在しているのです。
本レポートではフレキシブルガラス技術を分析しその利点について詳細な評価を行いました。そこではこの技術に取り組むキープレーヤーについて考察し、その一方で限られた柔軟性や表面(側面)のひびによって割れてしまう問題を克服するために現在開発されているいくつかのアプローチについても分析しました。またこの先10年の市場予測も行いフレキシブルディスプレイや照明、太陽電池での応用におけるフレキシブルガラスの中期的および長期的展望についても考察しました。
結論を述べると薄膜封止およびバリア技術は既に商業的に成功しています。ただこれは始まりに過ぎません。フレキシブルエレクトロニックデバイスはこれから長期的に存在していきます。したがってこれから先も引き続きバリアフィルムへの需要は存続します。バリアのためのテクノロジーミックスもまだ解決に至っておらず様々な技術が成熟し様々な新しい応用方法が具体化されるにつれ多くの変更が加えられていくでしょう。 更に詳しくはIDTechEx調査レポート「フレキシブルかつ(または)有機のエレクトロニクスのためのバリアフィルムおよび薄膜封止2018-2028」でご確認ください。
IDTechExの調査レポート「フレキシブルかつ(または)有機のエレクトロニクスのためのバリアフィルムおよび薄膜封止2018-2028」はIDTechEx日本法人 アイディーテックエックス株式会社から購入できます。
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担当:村越美和子 m.murakoshi@idtechex.com
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IDTechExは11月16日にカリフォルニア サンタクララでマスタークラス 「Barriers & Substrates for Printed & Flexible Electronics」を行います。この専門家によるセッションでは主要技術と市場、技術要件のマッピング、10年間の予測、およびグローバルなトレンドについて解説します。 更に詳しくは こちらをご覧ください。 このマスタークラスは11月13日と16日行われる25の専門家によるマスタークラスのひとつです。マスタークラスはIDTechExショー!の一部です! 1つのイベントで多くの関連技術の最新先端技術の発表が行われます。同時開催の8つカンファレンスで構成され2018年11月14-15日には展示会も行われます。
Top image: SMAC