ロボット革命: なぜ今なのか? ハードウェアの視点から
2018年10月5日
前回の記事では、ロボティクス(ロボット工学)の世界においてあらゆるものが変化していることを論じました。実際にロボットはますます協調性や移動性、知能を高めており、工場という限られた領域を飛び出して、産業や日常生活の多方面に活躍の場を広げてきていることをご紹介しました。こうしたトレンドは、長期間にわたり広範囲に及ぶ経済的かつ社会的な結果をもたらすでしょう。実際、IDTechEx調査レポート「新型ロボット&ドローン 2018-2038: 技術、予測、プレイヤー」では、ロボットとドローンの市場は2018年の660億ドルから2028年には2100億以上に成長すると予測しています。
興味深いことに、この新たなロボティクス市場のほとんどを(旧世代ロボットではなく)新世代ロボットとドローンが占めることになるでしょう。実際、当社ではこれら新世代ロボットとドローンはほぼゼロの状態から立ち上がり、2028年には市場の46%を占めるものと見込んでいます。
では、どうして、今なのでしょうか?
もっともな質問です。人々は常により多くの仕事をオートメーション化することに取り組んできましたが、その実現はオートメーションプロセスの経済的・技術的な制約に阻まれてきました。したがって、その答えはハードウェア/ソフトウェアコンポーネントの進化に伴って、性能の飛躍的な向上と価格の低下が起こり、かつては非現実的であったロボットのアイデアを実際のビジネス機会として捉えられるようになったからに他なりません。
この記事では「新型ロボット&ドローン 2018-2038: 技術、予測、プレイヤー」を基に、トランジスター、メモリー、センサー、エネルギー貯蔵、電気モーターなど、新たなロボティクスを構成するハードウェアコンポーネントの価格性能比の向上について考察します。ディープラーニングを含むソフトウェア面の進化については別の記事で取り上げる予定です。
当社のレポート では、詳細な技術分析を提供しています。その中で今後起こりうる技術発展のロードマップを検証しながら、重要な実現技術(ハードウェア/ソフトウェア)の性能と価格のトレンドを評価しています。さらに、46のロボットとドローンのカテゴリーについて、短・中・長期の予測(金額と台数)も提供しています。さらに、主要企業と革新企業についてもカバーしています。
新世代ロボットの構造
以下の図は、新世代ロボットのハードウェア構造を示しています。ここでは移動ロボットを想定しました。その知能部は演算素子(トランジスター、メモリーなど)とセンシング素子(GPS, カメラ、IMS、超音波、IR、LIDAR、ホイールエンコーダーなど)で構成されています。移動機能には電気モーターとエネルギー貯蔵が含まれます。さらに上位レイヤーにはインターネット、クラウドコンピューティングとストレージ、GPSネットワークなどのサポートインフラストラクチャーがあります。
The figure above shows the anatomy of a new mobile robot. Source: IDTechEx
この記事の後半でこれらのハードウェアコンポーネントが時間の経過とともにどのように進化してきたかを考察します。価格性能比の飛躍的な向上が富を創出する原動力となっており、世界的な生産性を押し上げています。このことは過去数十年にわたる急速な変革の時代を経験してきた私たちの誰もが直感的に認識しているトレンドです。
加速するトレンドが現在の状況の実現に寄与
下のチャートを見ていきましょう。まず「Computing」の線に注目してください。1940年頃から今日までを時間の関数として、演算コストを同期間の初期時点でのコストで割ったものを示しています。計測単位は毎秒16億個の命令を実行可能なデバイスのコストです。演算コストが12桁も大きく低下してきたことが分かります。全く驚くべきことです。
これには当然性能の向上も伴います。実際、ムーアの法則が有名です。興味深いことに、1971年の時点ではインテル社の4004チップは12mm2サイズのチップにわずか2250個のトランジスターが集積されていただけでした。これが2017年に向けて加速し、現在、アップル社のA11には89mm2サイズのチップに約43億のトランジスターが、Centriq2400には398mm2サイズのチップに約180億個のトランジスターが集積されています。これも驚異的なことであり、デバイスサイズが年を追うごとに小さくなっていきました。このますます速度を増す成長が新たなロボティクスの商業化の実現に寄与しています。
Left: Cost reduction as a function of time for transistors, photovoltaics, various memory technologies such as hard disk, RAM, solid-state flash, camera and so on. This is data is drawn from many sources including hbolk and Hamilton and adopted for our purpose. Right top: evolution of performance of Li ion batteries in Wh/L and Wh/Kg. Right bottom: reduction in size of electric motors (adapted from Hitachi data). さらに詳しくは新型ロボット&ドローン 2018-2038: 技術、予測、プレイヤー
ではここで、ラフ内のメモリーに関する線に注目してください。このグラフのコスト単位は$/Mbitです。ここでもハードドライブ、RAM、固体メモリーの驚異的なコストの低下が見られました。実際、この業界の変化率は非常に大きいため、創造的破壊現象の研究者にとっては格好の研究事例となっているほどです。
次にカメラ(CMOSイメージセンサー)を見てみましょう。ここでも、コストの指数関数的な低下が見られます。このほか急激なコスト低下が観察される技術には、MEMSなどのセンサー類が含まれます。機械制御やSolid State型の改善に向けた動きが起これば、LIDARの急激な価格低下が始まるものと思われます。
上記の結果、センシング(データ取得)と演算(データ処理)コストが対前年比で劇的に減少してきたことは明白です。これらのデバイスのサイズと消費電力も劇的に減少しています。これらのますます加速するトレンドのすべてが数十年にわたり継続したことで、複雑な新世代ロボット(協調性、移動性、知能性)の商業化が突如として現実化するという今日の状況に至っているのです。
ここで、移動ロボットの移動部を構成する2つのハードウェアコンポーネントの2つの側面(エネルギー貯蔵と電気モーター)について見てみましょう。まずはエネルギー貯蔵です。成長率はその性質が足かせとなって、指数関数的と言えるほどにはなっていません。しかし、実体を伴わないというわけではありません。図が示すようにリチウムイオン電池のエネルギー貯蔵能力は、1991年から2011年までの20年間でWh/KgとWh/Lでそれぞれ3倍と2.4倍に増加しました。それ以降も向上は続いており、最先端のポスト・リチウムイオン電池候補を模索する動きにより、今後加速する可能性が高いと思われます。さらにコストも大きく低下しています(ここには示されていないため、レポートをご覧ください)。こうした動きは、電気自動車業界からの需要の増大に対応すべく生産増強に向けた投資によって、一層拍車がかかる見込みです。
次に移動ロボティクスの陰のヒーローである電気モーターについて見てみましょう。図は、5馬力(3.7kW)の電気モーターの1910年の質量に対する経時的な質量の減少を示しています。現在では、当時と比較して大きく小型軽量化された電気モーターを使って同等の電力を出力していることが分かります。より効率的になり、より安価になっています。今、電動式移動ロボットやドローンの商業化が実現し、一般的なものになっている背景にはこうしたトレンドがあるのです。
さらに詳しくは「新型ロボット&ドローン 2018-2038: 技術、予測、プレイヤー」を参照してください。この調査レポートはロボットとドローに関する技術、市場についてグローバルで信頼のおける詳細な分析を提供します。既存のアプリケーションと新しいアプリケーションの双方をカバーし、46のロボットとドローンのカテゴリー/アプリケーションについて、短・中・長期の予測(金額と台数)を提供しています。また多くの参入企業についての情報も提供します。
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