大規模デジタル化におけるプリンテッドセンサーの役割
2024年4月11日
Dr Jack Howley
物理的相互作用をデジタル化する集積センサーは日常生活に不可欠なものです。パーソナライズしたユーザー体験から倉庫の在庫管理に至るまで、さまざまなデータ主導のインサイトが、より高度なスマートセンサーの大量需要を促しています。
プリンテッドセンサーが、この需要に応える鍵になるという見方もあります。既存の印刷方法を使えば、圧力、力覚、触覚、光、ガス、温度などを測定できるセンサーを大面積で大量に製造することが可能です。プリンテッドセンサーはこれまで、コスト面だけの理由から従来のセンシングソリューションとの競争に苦しんできましたが、形勢は変化しつつあります。大規模デジタル化には、デジタルインテグレーションの拡大とシームレス化が求められ、大面積プリンテッドセンサーは、次世代スマートセンシングソリューションを促すことのできる立ち位置にあるからです。
大面積プリンテッドセンサーおよびフレキシブルセンサー技術。
出典: IDTechEx
大面積:プリンテッドセンサーが大面積センシングの鍵
大規模デジタル化では多数の表面でデータを収集することになり、大面積センサーがこのニーズを満たすソリューションとなるのは必然です。大面積センサーの場合、相互作用表面をマッピングするため、単一点センサーのみを使用する場合と比較し、多くの空間情報が得られ、データ粒度も高まります。大面積センサーの製造では、減法製造よりも印刷製造の方がセンサーの大幅な大型化が可能となります。
大面積プリンテッドセンサーは、相互作用表面のマッピングが必要な家電用途で持続的に成長を遂げています。大手PCメーカーは、ノートパソコンのトラックパッド内に大面積の印刷式力覚センサーを採用し、動的な3Dタッチ機能を提供し、ユーザーインターフェース体験の向上を図っています。OLEDディスプレイの積層構造内にはプリンテッド光検出器が搭載され始め、デバイス全体の厚さが増すのを最小限に抑えつつ、マルチタッチ対応の指紋認証を実現しています。プリンテッド光検出器を使用したマルチタッチ認証は、現在のシングルタッチと比較し、セキュリティが7億倍まで強化されることが期待できます。
"有機光検出器(OPD)、ペロブスカイト光検出器(PPD)、量子ドット(QD)をベースとするプリンテッドセンサーとフレキシブルセンサーを使用した大面積センシングのビジネス機会" 出典: IDTechEx
プリンテッドセンサーにとって、スマートフォンやノートパソコンなどが市場参入への堅実なルートであることは当然です。これらのデバイスにはすでに大面積ユーザーインターフェースが搭載され、プリンテッドセンサーが提供する付加機能を活用しやすいからです。重要なのは、家電用センシングで求められる迅速な開発時間とカスタムメイドの性質が、カスタムセンシングソリューションの共同開発に適しているプリンテッドセンサーメーカーの技術力を補完するという点です。
多機能性:プリンテッドセンサーが複合機能性をコンパクトな形状で実現
多くのセンシング用途では、複数指標を一括で測定することが求められます。ノートパソコンの3Dタッチ対応トラックパッドを例にとると、高精度のタッチ検出に力覚入力の認識が不可欠です。センサーをシート状に印刷することで、形状や重量への影響を最小限に抑えつつ、異なるセンシング層を積み重ねて組み合わせることが可能となります。そのため、プリンテッドセンサーの使用により、多機能センシングを既存製品に比較的簡単に組み込めるのです。
自動車分野からは、電気自動車用バッテリーの熱管理用途での利用に関心が寄せられ、それが多機能プリンテッドセンサーの成長機会を生んでいます。印刷式ハイブリッド温度センサーは、バッテリーセルの不良の兆候であるバッテリーの膨張を感圧層で監視し、セルの高温箇所を検出できます。また、ヒーター層を印刷することでプリンテッドセンサー機能が強化され、さまざまな項目の測定が可能となり、包括的なアクティブ熱管理ソリューションを実現します。デプロイメント、充放電の最適化は、どれもバッテリーの大容量と長寿命化につながり、車1台当たりで最大3000ドル相当の節約になる可能性があります。
バッテリーのアクティブな状態監視および熱管理を実現する多機能プリンテッドセンサー技術。
出典: IDTechEx
自動車業界では持続的な技術的再定義の時期にあり、電動化と自動運転のメタトレンドがモビリティの未来を形作っています。また、自動車用センシング要件が進化していることも、多機能技術ソリューションの実現に向けたプリンテッドセンサーの成長機会をもたらします。鍵となるコスト、重量、エネルギー効率の最低基準がクリアされれば、バッテリーのケミストリーと設計の統一化によってソリューションの規格化が進む前に、プリンテッドセンサーが将来の電気自動車におけるセンシング要件を定義できる可能性があります。
フレキシブル性:フレキシブルセンサーによる形状と機能の両立
リジッドタイプのセンサーや検出器は、非平面の形状に沿うセンシングを必要とするアプリケーション(検出器が可能な限り手足の形状に沿う医療用X線撮像など)には不向きなことが多いです。PET、ポリウレタン、ポリイミドなどのフレキシブル基板上にセンサーを印刷することで、非印刷式センサーでは再現が難しかった、コンフォーマブル性に優れたセンシングソリューションが実現できます。弾性、耐熱性、さらには生分解性という多様な特性が利用できるため、カスタマイズ性が高く、最終用途に合わせて調整しやすいセンシングソリューションになります。
フレキシブル光検出器は、その高いフレキシブル性と非平面での測定が可能なことを活かし、現行のセンシング技術に取って代わることを目指すことで新たな成長機会がもたらされます。一例としては、X線撮像用大面積光検出器です。人体の形状に合わせられるX線用フレキシブルセンサーは、医療診断を進歩させる可能性を秘めています。一方、産業用途では、狭い空間での撮像が可能なため、部品の非破壊検査で時間効率の向上が期待できます。
フレキシブル性が活かされるのは光検出用途の中でもごく一部であり、より前途有望なのは、力覚、ひずみ、温度の各センシングをはじめとするプリンテッドセンサー技術です。ただし、一部のフレキシブル光検出器は、既存のイメージセンシングソリューション(X線、SWIR検出など)とコスト面で競合できるという希少な可能性を備えています。しかし、現行のイメージセンサーに取って代わるプリンテッド光検出器の成長の見通しは、明確に定義された高い性能基準をクリアできるかどうかに左右されることになります。
結論と展望
コスト、性能、サイズ、信頼性の最低基準をプリンテッドセンサーがクリアできないことが、これまで主要製品市場への進出の妨げとなっていました。しかし、大規模デジタル化が、より多様な表面でのデータ収集の必要性を高かめ、市場での差別化をプリンテッドセンサー技術にもたらす、より付加価値の高いものとして大面積センシングが急浮上しています。
家電製品市場が飽和状態にあり、革新的新機能を実現する大面積センサーへの関心は高く、プリンテッドセンサーメーカー各社は、短い開発サイクルに対応する上で有利な状況にあります。多機能でフレキシブルなプリンテッドセンサーもまた、医療業界やEV業界で求められるようになってきました。従来のセンサーは大面積センシング、多機能性、フレキシブルな形状を個別に実現できますが、この3つすべてを同時に実現する最も効率的な方法はプリンテッドセンサーです。
今後の見通しとして、IDTechExではプリンテッドセンサー市場が2034年までに9億6000万ドル規模に達すると予測しています。今後は大面積・多機能フレキシブルセンサーがバッテリー状態管理やフレキシブルディスプレイ上での生体認証、さらにはフレキシブルな医療・産業用X線撮像などで用いられることで新たな機会が開拓され、プリンテッドセンサー市場の成長を促すことになるでしょう。
さらに詳しくは、 IDTechExの調査レポート 『プリンテッドおよびフレキシブルセンサー 2024-2034年:技術、有力企業、市場』で、ご確認ください。